猿と夢

神戸です。

先日は長野へ行ってきました。ちょっとやっかいな仕事の前だったので、また雪をみてリラックスしようといった目的で。長野から乗り換えて湯田中渋温泉郷に宿をとり、雪の少ない温泉街を歩いているとなんと、猿がたくさん歩いているではありませんか。両足がなく両手でひとり歩いている猿以外はみな親子で、母猿が小猿を大事そうに抱えています。こんなところにいるくらいなので人懐っこいのかなと近づいてみると、「フーッ!」と母猿から怒られてしまいました。後で知りましたが、近くに地獄谷という、猿が温泉に入っている風景が見れることで有名な公園がありました。世界でも珍しいとたくさんの外国人観光客が訪れるようです。そこでふと思い出しました。若い頃に訪れたマレーシアのバトゥー洞窟で見かけたたくさんの猿たちを。写真を撮ろうと一匹の子猿に近づきシャッターを切った瞬間、カメラを引ったくって持ち去ってしまったのです。追いかけるとしばらく逃げた後、猿は突然カメラを地面に放り投げてしまいました。奇跡的に壊れず現像できた写真には、やはり怒ったような顔をした猿が映っていました。

江戸時代寛政年間創業の温泉宿には、純木造伽藍建築で国の有形文化財に登録されている大浴場があり、クラシックな落ち着きと豪華さを漂わせています。夕方からしんしんと降り続いた雪が、深夜には野趣あふれる庭園露天風呂を囲むうっそりとした木々にテンコ盛りで積もっており、酔って火照った体へこぼれ落ちてくるのでした。うっすらとライトアップされた幻想的な雪景色に見蕩れ、ここは夢か幻か現実か、まるでわからなくなるようでした。

翌朝はよく晴れて、外は真っ白に光り輝く白銀の世界であり、停めてある自動車の上には30センチ以上の雪が積もっていました。雪かきをしている街の人々は「2ヶ月遅かったね、今まで楽してたから大変だ」と懸命にスコップを動かしています。360度広がる雪山のパノラマに目を奪われて転ばないよう、慎重に雪道を歩き、しかし年に数回しか活躍の機会がないソレルのブーツを履いた両足はあきらかに浮足立っており、危うい感じで駅に向かいました。長野へ戻る途中に小さい街「小布施」に立ち寄り、歴史が感じられる陣屋小路を抜け北斎館へ向かいました。画狂人北斎による天井画や肉筆画も良いのですが、たくさんの絵本に出てくる美女や風景もたいへん美しく、特に木版画による名作「夢見る女」には目が釘付けになりました。春でしょうか。香りがしてきそうな梅の木の下で、文机に突っ伏して寝ている振袖姿の若い女性の頭からは漫画の吹き出しのようなものが出ており、どうやらにぎやかな夢を見ているのかと思わせます。後で調べると、中国の故事「邯鄲の枕」というもののパロディらしく、苦悩する若者が借りた枕で眠り、その後立身出世し波乱万丈な50年を過ごして亡くなったが、夢から覚めると眠る前からほんのひとときしか経っていなかったという話のようでした。なんともはかなく、人生の栄枯盛衰を感じます。

目的のひとつであった善光寺詣りを終えて、仲見世を抜け風情ある表参道を歩きながら信州そばの名店をのぞいていると、地元のおばあさんが「ここより美味しいお店があるよ」と道向にある古くて立派な蔵造りの、九一(クイチ)蕎麦の店を教えてくれました。店内は他に家族連れが一組だけでゆったりした空間です。高校生くらいの娘が母とじゃれ合っていて、騒がしくてすみませんと母親から声をかけられました。少し寒かったのでお銚子一本つけてもらい、温かい地鶏南ばんをいただいてから、小さな声で先ほどのおばあさんにお礼をつぶやきました。お会計時にご主人へ「良い営業さんがいますね」とおばあさんの話をしてからかうと、照れながら「昨年亡くなった母なんです」と言いました。

東京行きの新幹線を待つ駅の待合室は暖かく、うとうとしてきました。生きていると時々「これが夢であったら、、」と思うようなしんどいこともありますが、今は夢であってほしくないな、と思えました。

さておき?

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